- 婚姻関係が破綻していると慰謝料請求にどのような影響が出るの?
- 婚姻関係が破綻しているかどうかはどうやって判断する?
- 主張された場合はどのように対処すればいい?
この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。
配偶者や不倫相手に慰謝料を払わせるには、配偶者と不倫相手とが不貞関係にあった当時、婚姻関係が破綻していなかったことが条件です。つまり、裏を返せば、配偶者と不倫相手とが不貞関係にあった当時、婚姻関係が破綻していた場合は慰謝料を払わせることができない、ということになります。
そのため、配偶者や浮気相手に慰謝料を請求した際、配偶者や浮気相手から「婚姻関係が破綻していたから慰謝料を払う義務はない」などと主張(抗弁)され、慰謝料の支払いを拒否されることが少なからずあります。
そこで、この記事では、婚姻関係破綻の抗弁の意味や婚姻関係が破綻しているかどうかの判断基準、婚姻関係の破綻を主張された場合の対処法などについて解説していきたいと思います。
婚姻関係破綻の抗弁とは?
婚姻関係破綻の抗弁とは、「不貞関係にあった当時、婚姻関係が破綻していたと思っていたから慰謝料を払う義務はない」として、慰謝料の支払義務を免れようとする相手(特に、不倫相手)の主張のことです。
そもそも、不貞が民法上の不法行為となるのは、不貞によって、あなたの婚姻共同生活の平和の維持という権利あるいは法的保護に値する利益が害されるから、と考えられています(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
もっとも、婚姻関係が破綻していると、この権利利益は消滅していることから、婚姻関係が破綻している間の不貞は民法上の不法行為とはいえない、すなわち、慰謝料を払わせることができない、ということになりかねないのです。
婚姻関係破綻の抗弁は不倫相手が使う主張
この婚姻関係破綻の抗弁は、不倫相手が使う主張の一つでもあります。
これは、配偶者が不倫相手を不倫に誘う誘い文句として「(あなたとの)婚姻関係がうまくいっていない」、「(あなたとは)離婚するつもりだ」などというセリフが使うことが多いことが影響しているものと考えられます。
婚姻関係破綻か否かの判断基準
では、気になるのが何をもって婚姻関係が破綻したといえるのか、その判断基準ではないでしょうか?以下では婚姻関係が破綻しているかどうかの判断基準をみていきましょう。
別居(期間)
まず、もっとも重要視される基準が「別居」です。
法律上、夫婦は同居する義務を負っています(民法752条)から、別居したということは、夫婦ではなくなった=婚姻関係が破綻した、と考えられてもおかしくはないからです。婚姻関係が破綻したといえる別居期間の目安は「5年」とされていますが、あくまで目安です。
婚姻関係が破綻したか否かは、別居期間のみならず
- 別居の経緯・理由
- 別居後の交流の有無及び頻度
- 修復あるいは離婚に向けた行動の有無及びその内容
など諸事情も総合的に考慮して判断されます。そのため、別居期間が5年以下でも婚姻関係が破綻したと判断されることもありえます。
夫婦としての実態がない
次に、同居していても夫婦としての実態がない場合、すなわち家庭内別居の場合でも婚姻関係が破綻していると判断されることがあります。判断基準などについては以下の記事で詳しく解説しています。
交流がない、修復に向けた行動がない
次に、別居後、まったく交流が途絶えてしまった場合や修復に向けた行動(メール・電話のやり取りのほか、配偶者との話し合い、カウンセラーへの相談など)がない場合も、婚姻関係が破綻したと判断される事情の一つになりえます。
離婚意思が具現化している事情がある
次に、離婚意思が具現化している事情があるかどうかです。離婚意思が具現化している事情とは、たとえば、
- 離婚条件について具体的に話し合えている
- 離婚協議書、公正証書を作っている
- 離婚届にサインしている
- 離婚調停中である
などの事情をあげることができます。
一方、離婚を切り出されたものの、具体的な離婚条件については話し合っていない、決まっていないという段階では離婚意思が具現化しているとはいえません。
DV、モラハラを受けている
次に、継続的にDV・モラハラを受けている場合です。継続的にDV、モラハラを受けている状態だと、婚姻関係を修復することは難しく、婚姻関係が破綻したと判断されやすいでしょう。
参考:ドメスティック・バイオレンス(DV)とは|内閣府・男女共同参画局
セックスの一方的な拒否
次に、正当な理由なく、セックスを拒否し続けた場合も婚姻関係が破綻していると判断されやすくなります。セックスは「婚姻の基本となるべき重要事項」だと判示した判例(最高裁判所昭和37年2月6日)があります。
その他
そのほか、浪費、借金、ギャンブル、宗教、相手親族との不和、性格の不一致などを理由に、婚姻関係が破綻したと判断されることがあります。
婚姻関係破綻は誰が証明する?
婚姻関係破綻については、婚姻関係が破綻して「いる」ことを、慰謝料請求された側が主張・立証すべきものと考えられています。つまり、慰謝料請求する側が、婚姻関係が破綻して「いない」ことまでを主張・立証する必要はないということになります。このことは、過去に婚姻関係の破綻について争われた裁判例をみても明らかです。
そもそも、婚姻関係が継続している(離婚しない)限り、前述の「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」が存在しており、慰謝料請求する側とすれば、単に婚姻関係が継続していることを主張・立証すれば、上記権利利益が存在していることを証明できます。
そのため、この証明を覆して、不貞が不法行為でないことを証明し、慰謝料の支払義務を免れるには、慰謝料請求される側が、不貞関係にあった当時、婚姻関係が破綻していることを主張・立証すべき、と考えられるのです。
婚姻関係破綻の不貞の抗弁に対する対処法
それでは、最後に、婚姻関係破綻の抗弁に備えた対処法をご紹介します。
同居を継続する(別居しない)
まず、可能な限り、同居を継続することです。
配偶者から別居を申し入れられても安易に応じてはいけません。家庭内別居の場合や一方的に別居された場合でも、婚姻関係が継続している(離婚していない)以上は、簡単に婚姻関係が破綻したと判断されることはありません。
別居しても交流を絶たない
次に、仮に別居した場合でも交流を絶たないことです。
別居しても
■ メール・電話でやり取りする
■ お互いの家を行き来する
■ 一緒に買い物、外食する
■ 一緒に遠出(旅行)する
■ 性交渉する
などして交流を図りましょう。
心理的にハードルが高い人は、最低限、LINEなどで配偶者をブロックしたり、着信拒否にするのではなく、いつでもコンタクトを取れるようにしておくべきです。
そして、実際にやり取りした場合は、必要と思われるメールや通話履歴をスクショして証拠として残しておくとよいです。また、一緒に買い物した、外食した、どこかにでかけたなどという場合は写真や動画などでその場面を撮影したおくのも一つの方法です。
安易に離婚の話し合いに応じない
次に、離婚意思がない場合は安易に離婚の話し合いに応じないことも必要です。
配偶者から離婚を切り出されたり、離婚届にサインを求められると、どうしても感情的になってそれに応じてしまう方が中にはおられます。しかし、後日、それを逆に利用されて婚姻関係破綻後の不貞の抗弁に使われる可能性もありますので注意が必要です。
まとめ
婚姻関係破綻の抗弁とは、配偶者と不倫相手とが不貞関係にあった当時、婚姻関係が破綻していたため慰謝料を払う義務はない、との主張のことです。特に、不倫相手からよくされる主張ですので注意が必要です。
もっとも、婚姻関係の破綻については、婚姻関係が破綻していることについて、慰謝料請求される側が主張・立証すべきと考えられており、慰謝料請求する側が婚姻関係が破綻していないことまでを主張・立証する必要はありません。
別居してしまうと婚姻関係が破綻していると判断されやすくなりますから、可能な限り別居せず、婚姻関係を継続させておくことが、婚姻関係破綻の抗弁の一番の対策となります。